INTRODUCTION&STORY
北の果て、知床・斜里―Shari―の、摩訶不思議なほんとのはなし
ダンサー:吉開菜央×写真家:石川直樹、少数精鋭スタッフが結集
羊飼いのパン屋、鹿を狩る夫婦、海のゴミを拾う漁師、秘宝館の主人、家の庭に住むモモンガを観察する人。彼らが住むのは、日本最北の世界自然遺産、知床。希少な野生動物が人間と共存している稀有な土地として知られ、冬にはオホーツク海沿岸に流氷がやってくる。だが、2020年、この冬は雪が全然降らない。流氷も、なかなか来ない。地元の人に言わせれば、「異常な事態」が起きている。 そんな異変続きの斜里町に、今冬、突如現れた「赤いやつ」。そいつは、どくどくと脈打つ血の塊のような空気と気配を身にまとい、いのちみなぎる子どもの相撲大会に飛び込む!「あらゆる相撲をこころみよう!」これは、自然・獣・人間がせめぎあって暮らす斜里での、摩訶不思議なほんとのはなし。
カンヌ国際映画祭に正式招待された『Grand Bouquet』(19)をはじめ、これまで身体表現を追求した多様な映像作品を手がけてきた吉開ならではの視点で、大きな変化が起きつつある北の地を自由自在に彷徨い歩く。撮影は、これが初めての映画撮影となる写真家の石川直樹。現実と空想を織り交ぜながら紡がれる吉開初長編監督作品は、知床の既存のイメージを突き抜ける、愛らしくも凶暴な音と映像を、見る人の五感に轟かせる。地球上に暮らすあらゆる命の声が聞こえてくる、唯一無二の映画が誕生!
CAST
斜里町の人々
小和田さん
羊飼いのパン屋「メーメーベーカリー」の主人。趣味は編み物。全国を流れ流れて斜里にたどり着いた数奇な半生を語る。
桜井さん夫婦
庭に住みついたモモンガを観察する人たち。いち生活者の視点から、日々動物を観察して見えてきた独自の哲学を話してくれる。
川村さん夫婦
東京から斜里町へ移住し、現在は鹿猟をしている。自分たちで獲った鹿を調理し、撮影チームに振る舞ってくれる。
三浦さん
広大な土地を持つ酪農家だったが、今は引退し、趣味の木彫り集めに熱中。その膨大なコレクションから、自宅は「秘宝館」と呼ばれている。
伊藤さん
代々斜里町で漁師をしてきた。が、今年の冬は明らかにおかしいと警鐘を鳴らす。漁師の立場から海の環境を見つめ、ゴミ拾いを実践している。
子供たち
斜里町に暮らす子供たち。雪合戦や相撲に熱中し、「赤いやつ」とぶつかりあう。
赤いやつ
???
STAFF
【監督・出演】
吉開菜央(よしがい・なお)
「写真家の石川直樹さんから知床半島斜里町で一緒に映画をつくらないかと誘われて、この映画ははじまりました。石川さんは6年前から地元の写真愛好家と「写真ゼロ番地知床」というプロジェクトを立ち上げていて、彼らと深い信頼関係を持ちながら作品制作を継続されています。わたしは石川さんのツテを辿り、2019年の夏に斜里町に滞在し、斜里岳に登ったり、野生の鹿肉を食べたり、特別に漁船に乗せてもらったりしながら、ただ観光するだけでは決して出会えないような人々の生活を垣間見るという得難い体験をしました。翌年の2020年1月。現地での撮影がスタートしますが、その年は記録的な少雪で、真っ白な銀世界で撮影するという期待は早々に裏切られることになります。斜里で会う人はみんな口々に言います。「今年は異常だ」。彼らの切実な声は、東京に住むわたしにも無関係な話ではないと強く確信し、いまここで起きている、決しておとぎ話では済まされない現実も含めてすべて映画にするべきだと決心しました。わたし自身が人と獣の間のような「赤いやつ」に扮し、斜里を全身で体感し、人と自然、自分と他者、言葉になることならないこと、夢と現実、さまざまな境界線を彷徨い、あらゆる命の渦の一粒として、生きながらつくりあげた、初めての長編映画です。映画に残すことのできた風景と音が、世界中のみなさまの今に繋がることを願っています。」
1987年山口県生まれ。映画作家・振付家・ダンサー。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業、東京藝術大学大学院映像研究科修了。作品は、国内外の映画祭での上映をはじめ、展覧会でもインスタレーション展示されている。MVの監督や、振付、出演も行う。監督した主な映画は『Grand Bouquet』(カンヌ国際映画祭監督週間2019正式招待)、『ほったまるびより』。米津玄師MV『Lemon』出演・振付。近年の主な展覧会に「霞 はじめて たなびく」(TOKAS本郷、東京)「オープン・スペース2018 イン・トランジション」(ICC、東京)にて《Grand Bouquet/いま いちばん美しいあなたたちへ》(2018)「めがねと旅する美術展」(青森県立美術館、島根県立石見美術館、静岡県立美術館、2018-2019巡回)、「Primal Water」(Bellagio Gallery of Fine Art、ラスベガス、アメリカ、2018)、「ほったまるびより―O JUNと吉開菜央」(Minatomachi Art Table Nagoya、愛知、2016)、「呼吸する部屋」(AI KOWADA GALLERY、東京、2017)など。受賞歴に「Grand Bouquet」サンディエゴアジア映画祭 Best International Short受賞(アメリカ、2019)「風にのるはなし」Motif Best experimental film(アラスカ、2018)、「ほったまるびより」文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞受賞(2015)、「みづくろい」YCAM架空の映画音楽の為の映像コンペティション最優秀賞受賞(坂本龍一氏推薦、2013)。2020年12月には自身にとって初の監督特集上映「DANCING FILMS」が開催された。
FILMOGRAPHY
『みづくろい』2013年
『自転車乗りの少女』2013年
『I want to go out』2014年
『ほったまるびより』2015年
『風にのるはなし』2018年
『静坐社』2018年
『みずのきれいな湖に』2018年
『梨君たまこと牙のゆくえ』2019年
『Grand Bouquet』2019年
『Shari』2021年
【撮影】
石川直樹(いしかわ・なおき)
「知床半島を初めて訪れたのはもう20年近く前になります。コロナ禍に入るまでは、本当に何度も何度も知床の玄関口である斜里を起点に旅をして、冬も夏も、特に近年はさまざまな場所を歩きまわりながら写真を撮っていました。なのに、今回初めて映画を撮影する目的で彼の地に滞在してみたら、見慣れた場所にまったく未知の風景が立ち上がってきた。地名としてはとても有名な知床ですが、そこから想起される土地の表情や姿は、人の数だけ存在する。この映画が、そんなことを少しでも感じてもらうきっかけになったらいいなあ、と思っています。」
1977年東京生まれ。写真家。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。2008年「NEW DIMENSION」(赤々舎)、「POLAR」(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞。2011年「CORONA」(青土社)により土門拳賞を受賞。2020年「EVEREST」(CCCメディアハウス)、「まれびと」(小学館)により写真協会賞作家賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した「最後の冒険家」(集英社)ほか多数。2020年には「アラスカで一番高い山」(福音館書店)、「富士山にのぼる」(アリス館)を出版し、写真絵本の制作にも力を入れている。
【録音・音楽】
松本一哉(まつもと・かずや)
「少人数で強行スケジュールの中、冬の知床で録った音が映画全体から聴け、また、私が初めての知床での体験から制作した音楽を聴けて、撮影時の様々な音風景の時間が鮮明に思い浮かびます。 冬の知床の環境音、雪の音、流氷の音、氷の音、風の音、動物たちの声、人々の声、人工的な音、演奏の音、音響の音。 全ての音が混ざり合ってSHARIという生き物の音になっており、音の面からも様々な越境が読み取れました。 この時代の冬の知床の音を残せた事に喜びを感じます。 関わった全ての知床の生き物たち、ありがとうございました。」
石川県出身。音楽家・サウンドアーティスト・ドラマー。主に楽器ではなく、造形物・非楽器・自然物・建築物・身体などを用いた即興表現を追究。偶然に起こる環境音との即興によるドキュメンタルな音源制作をはじめ、展示会場に滞在・生活して音を展示し続ける動態展示、全都道府県を一人で周る演奏ツアーや、ライブ公演を行わず人に会いに行く事がテーマの”人の音を聴きに行くツアー”を行うなど、場で起こる事にフォーカスした活動を展開する。2013年、瀬戸内国際芸術祭の関連事業「おとくち」プロジェクトにてグランプリを受賞。2015年、自身初のソロ作品『水のかたち』をSPEKKからリリース。2020年には、吉開菜央×石川直樹 PHOTO EXHIBITION「TOP END4」映像作品に録音技師・音楽制作として参加した。
【助監督】
渡辺直樹(わたなべ・なおき)
「この映画の話を吉開さんから聞いたのは2019年末、長い間携わっていた大きなプロジェクトを終えた直後でした。東京から知床にわずか数人で赴いて、映画を作ろうとする試み。誘われてもいないのに、この”はしっこ”の土地での小さな映画づくりが次にやるべき仕事なのではないか、と直感が走ってその場で「行く」と口走っていました。 しかも他に参加するのは写真家/石川直樹さんと音楽家/松本一哉さん。吉開監督も併せ、各界の才能と映画を丁寧に結びつける“役目”が僕にあるのだろうな、と勝手に使命感を覚 えたものです。
結果として、知床という土地とそこに暮らす人たちの姿と心根は、想像よりもはるかに映画を支える幹となり、僕ら4人が持ち寄った物語と、軽やかに織り交わる作品になった気 がします。
撮影した2020年1月は今考えると意味を持ってしまった日付になりました。カメラを向けたオホーツク海の流氷の到来に合わせ、新型コロナ感染症が静かに近づいてきたのならば 。この難しい時期を今度は“赤いやつ”が溶かして、心置きなく斜里を再訪できる春を心待ちにしています。」
静岡県浜松市出身。河瀨直美監督作品『殯の森』(2007年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞)へ携わったことを機にキャリアをスタートさせ、その後、数多くの映画制作に参加する。助監督・監督補を務めた主な映画作品に、石井裕也監督『川の底からこんにちは』、山下敦弘監督『オーバーフェンス』、山戸結希監督『溺れるナイフ』、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』など。またその一方で、 NHK連続テレビ小説『あまちゃん』、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』に企画の立ち上げから参加。宮藤官九郎の脚本制作に伴う膨大な取材も担当し、いだてん第39回では演出を務めた。
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